昨晩は2時過ぎにHotelに戻り、翌朝は8時には目が覚めた、窓を開けると空はどんよりしており、あいにくの天気になってしまった。今晩は友人の結婚祝いの食事会があるので、日中は、香港で一番大きな島、Lantau Islandにある山では一番高い「鳳凰山」934mの頂上に立つために山登りをする計画を立てていた。九龍半島のHunghom Ferryから中環に移動し、中環からLantau IslandのMui Woへ渡り、そこからNgong Pingというルートで鳳凰山の入り口に至る。途中には石壁刑務所がバスの左手に見える。
中環のフェリー乗り場にあるSubwayでサンドイッチを2つ購入し行きのフェリーの中で朝食を済ませる。1つは山登りで遭難したときのために水と一緒にバッグの中に入れておいた。昼前にNgong Pingに到着すると小雨が降り始めている。折角ここまで来たのに諦めたくないという気持ちと、山頂付近の天候は下よりも早く、突風なども考えると、あまりリスクを取ることもできないと迷っていた。できるところまで挑戦すると決心し、折りたたみの傘を購入し、足早に登山道の入り口に進む。ここに来るのは3度目だ。今回の試みは、山登りを通して「自分と向き合う」である。
いよいよ鳳凰山の入り口に、山の上の方には濃い霧がかかっていて、山頂の状況はどうなっているのかわからない。風も少し強い。真夏の強い日差しの中を登るよりはいいが、最高のコンディションとは言い難いのも事実。山頂から日の出や日の入りを見ようとすれば、天候にも大きく左右されるため、運も必要となるだろう。後からわかったことだが、Ngong Pingから鳳凰山の山頂を目指すコースは反対側のコースよりも急斜面で負荷がきつく、平均で2時間半程度登り続ける必要があり、平坦な道はなく、崖のようなゴツゴツした不ぞろいの岩の階段を登ってゆくので、登るのにはある程度の決心が必要だ。
道の途中には「努力年青人」とチョークで書かれた文字がある。青年よ努力せよ! というMessageだ。山を登り始めて、本当につらいところで、頑張れなど、多くのメッセージが書かれていた。おそらく親が後から登ってくる子供へ残したものだろう。
険しい山道が延々と続き、引き返そうかと、何度も思ったが、なんとか山頂近くまでやってきた。山頂らしい雰囲気で、もうひと踏ん張りすることができたが、実はそこからが、またかなり長い道程であった。
山頂は雲海を見渡すことができ、まるで天界にでもいるかのような錯覚を起こすほど、恐ろしく美しい風景で、遠くの雲の切れ間にうっすら太陽に照らし出された空が見える。山頂で出会った香港の皆さんに、葡萄や人参などをお裾分けして頂き、持ってきたサンドイッチを雲海を眺めながら食べたときの爽快感は、一生忘れられない。生きていることの充実感、ここまでこれたことの達成感、良い時間を過ごすことができた。
山登りとは、人生の縮図である。登っている足元が現在、登ってきた道が過去、上を見上げれば未来がある。ひとりで登るときもあれば、誰かと登るときもある。誰かとすれ違ったり、追い抜かれたり、山登りには人生の俯瞰するような要素が多々含まれている。登ればわかるが、登ってきた道をどうしても振り返ってしまう。人間は過去に固執しやすい動物だ。そして過去に戻りたい誘惑に駆られることも多い。道を引き返せば楽になれるのではないだろうか。そんな迷いが私の足取りを重くさせた。上を見上げれば、一寸先はどのようになっているのかわからない。霧もかかり、不安でいっぱいな気持ちになる。どこまで行けばいいのかすら、見えてこない。未来は足元の一歩一歩の積み重ねなのだ。山登りとは、人生の縮図である。いくらか進むと、後ろを振り向く回数が減ってゆく、引き返すよりも登りきったほうが楽かもしれないと思い始める瞬間がある。折角ここまで来たのだから引き換えしたくない。人間の一生には、このようなタイミングが訪れるのだろう。前進むしかないと決断したとき、人間は前を見据えて、歯を喰いしばって登り始める。山頂が近づくとき、あと一息、もう少しだからと勇気が湧いてくる。頂上が見えるとき、嬉しさが込みあげてくる。思えば遠く、来たものだ。生きてきた道に思いをはせながら、今度は山の頂から、全てを忘れて無に帰する。あのMessageは、親が子供に見せる背中である。自分も厳しくつらい瞬間に、頑張れとMessageを送るということは、先に生きる者の責任でもある。そしてこの登山道を作った人々のことを考えると、さらに脱帽する。「志」が成せる業だ。下山は、山頂で出会った香港人の老夫妻と、行き方について、仕事について、日本のこと、香港のこと、本当に色々なことを話しながら山を降りることができた。人生に迷ってくよくよしている時間があるのなら、山に登ることをお勧めしたい。頂上で何かをつかみ取ることができるはずだ。
2010/01/27
香港一人旅②2010年1月26日
ラベル: 香港滞在記