2009/02/23

失われてゆく記憶

日本への一時帰国を利用して祖母の家を訪ねた。私が日本を離れている間にアルツハイマーと診断された祖母の状況が心配で、直接自宅に足を運んだ。誰でも年をとれば足腰の不自由や病気の1つや2つはするものだと思っている私でも、5時間ほど一緒に話してみて、改めて病状の深刻さを実感した。私は幼少の頃からおばあちゃんっこで育ち、時間があれば、成人してからもちょくちょく祖母宅へ足を運び一緒にお茶を飲んだり、色々な話をして時間を過ごした。祖母は看護婦をしていたこともあり、病気については人一倍詳しく、自身が心臓肥大という病気を患ってからも、冷静に自分と向き合ってきたであろう、様々な書籍が山積みされている室内の様子からもうかがえる。また精神科にいたこともあり、心理学や人間行動学に関する書籍もたくさんあった。そんな祖母ですら、アルツハイマーという病気にかかっては、自分自身がお茶っぱ1つどこに置いているのか忘れてしまう。いつ帰国したのか聞かれて答えた瞬間に、その答えを忘れてしまい、同じ質問をすぐにしてくるというような状況に、私は呆然としてしまった。想像よりもずっと厳しい病状だとすぐに認識した。私の赴任している香港すら、もう覚えていない。着実に祖母の記憶から私達の存在が消されてゆくのを肌で感じた。陸軍で情報将校をしていた、おじいちゃんの仕事の内容すら覚えていない。私より祖母はずっと不安だろう。時間が許す限り足を運びたいと思う。父と母もすっかり年を取ったと思う。あと10年、20年もすれば私は貴方達抜きで、この世を生きなければならない。先に逝くような親不孝だけはしなようにしようと思う。