2008/05/17

シリコンバレーからの手紙を読んで

梅田望夫さんの「シリコンバレーからの手紙」を読んで、特に共感できる部分が、

世界中のどこに住んでいようと、たっぷり時間をとれる余裕を持つ人こそが、
あるテーマについて世の中で何が起きているかを正確に把握できる。
そんな時代になったのだ。

と述べられているところである。

こちらに来て毎週中国の産業に関するレポートを作成しているのだが、公休日は、週2日で32時間程度、仕事があるときで5時間程度は情報収集と、その中から重要なエッセンスを抽出してまとめるという作業を繰り返している。さすがに中国は広く、情報量も多い、更に変化のスピードが速いので常にキャッチアップしていないと情報の質は劣化する。人脈からの情報も重要なのだが、その人間の持つ情報自体も信憑性がないことのほうが実は多い。その人物が常日頃から、情報の質にこだわっているかどうか、インターネットの世界に生きているかどうかも、その人物が持つ情報の価値を判断する最も重要な要素の1つになりつつある。

インターネットの情報だけが全てかと言えば、もちろん、ある人物が生涯を通して作り出した、ディープスマートの集積である本というのは、少ない時間で濃縮された情報を吸い上げるのには適しているし、情報の鮮度以外では学ぶべきことが多い。何を選んで読むかにもよるが、1つの分野で30冊も読めば殆ど全体を俯瞰でき、極めて細かい詳細まで把握することができる。60冊も読めばほとんど、誰が何を言っても知らないことは皆無になる。そして何を考えているのかもおよそ検討がつく。「この方は、この事を今意識していて、この情報によって、こんなことを描いているのだな」と想像がつく。

インターネットの世界というのは、私にとって最大の魅力であり、時間と場所の制約を一切取り払ってくれる強力な武器でもある。豊富な時間を集中して投資することで異常なレバレッジがかかってくるのは体験済みだ。私が仕事に行っている間でも、私が望む情報を24時間休まず収集し続けてくれる。私はリアル世界から戻るとすぐに情報リソースにアクセスして情報の質を見極めて、良い情報はネット上に溜め込んでゆく。こうして最短の時間で高密度な情報を集めることができる。更にこの作業に当てる時間と考察する時間をしっかりと持つことで(これは梅田望夫さんが言うようにリアル世界での経験などが左右するところ)情報の大海原から一握りの宝を手にすることができるようになる。

ところで読書というのはリアル世界とインターネットの世界の中間に位置する感覚がある。本を選んで読了するまでの一連の動作には、一定の時間が必要になる。この辺はリアル世界ならではという感じがするが、今は誰でもアマゾンで簡単に欲しい本がすぐに手に入るようになった。これは海外にいても全く条件は変わらない。リアルな本(物体)が私の手元に望めばやってくる。但しこれもあくまで窓口はインターネットであり、何が必要か、どれを選ぶべきかさえ瞬時に判断できれば後は数回クリックすれば後は記憶から削除されたとしても、オートマチックに玄関先に配達される。読み方は人それぞれ情報の取捨選択は個人に左右されるだろう。以前は本屋に言って買ってきて読むということが当然だったので、完全なリアル世界の中の出来事であったが、最近は時に時間と空間を越える部分を有していることが、自分にとっても大きなインパクトであり、それがリアルとあちらの世界の中間点に位置するという根拠である。

唯一リアル書店の最大のメリットは、本屋自体が世の中の俯瞰図になっていることだろうか。これをこちらの世界で表現してもらえたら最高であり、パラパラ眺めることは既に実現できているのでリアル世界からインターネットの世界へ引き込むことが可能な部分だと考える。なんで俯瞰することがメリットかと言えば、インターネットでは必要とされるキーワードから能動的に情報収集をしなくてはいけない。つまりアイデアや情報収集の対象に乏しいと、何もできない。リアル書店は勝手に情報が飛び込んできて面白そうだ。とか興味深い、こんなものもあるの?というように受動的に情報が入ってくる。これは自分の偏った情報収集の不足部分を補完するという点で非常に有効だから、大切な点である。

http://amaztype.tha.jp/
(これが比較的近いイメージ)

ネットの本質とは、電子メールに顕著なように、
人と人との関わりにおいて同時性を求めないですむことにある。
これからもネットは、同時性の呪縛を解く方向へと進化し、
「場所にいっさい縛られない自由」を私たちが享受できるよう道を拓くはずだ。

このように梅田望夫さんはおっしゃっている。
私達の仕事の在り方も随分と変化してくるに違いないが、現状会社で感じるのは、インターネットの世界に住みながらリアル世界で、その恩恵を最大限に発揮できるひとと、そもそもインターネットの世界に住んでいないか、住んでいても、最大の恩恵に与っていないひとの混在であり、同時性の呪縛を解いていこうという発想自体がなく、そのような風土も醸成されにくい。だが最終的に一番大切なのは、このインプットとアウトプットで何を成すかである。リアル世界で成果を挙げに行く。インターネットの世界で不特定多数への働きかけを通して付加価値を提供するなど、個人として貢献できる選択肢は多い。

世界は着実に変化してゆく。

http://d.hatena.ne.jp/umedamochio/20080516/p1